復活を期待するファンの願いは届かなかった。
5月3日、京都競馬場で行われた天皇賞春(GI/芝3200m)でキズナ(牡5)は1番人気に支持されていた。世界一を目指す日本のエースとして、多くの期待を集めていたのだ。
しかし、結果は7着。“復活劇”は起こらなかった。
なぜ、キズナは敗れたのか。いくつかの角度から分析していこう。
目次
惨敗の理由① そもそも期待値が高過ぎる
そもそも、なぜキズナが負けるとこれほど話題になるのか?
・3冠馬ディープインパクトの産駒
・武豊との名コンビ
・日本ダービー馬
・華やかなレースぶり
人気を集める理由はいくらだってある。
しかし、冷静に考えるとキズナはGIを一つしか勝っていない。日本ダービーを勝っただけ。にもかかわらず、これだけ多くの期待を背負わせるのはかわいそうだ。
キズナは“日本一のスターホース”かもしれないが、どんな条件でも走るディープインパクトのような“完全無欠のスーパーホース”ではない。よって、普通に負ける。言い方を変えると、「負けることが不可解」という解釈はありえない。
惨敗の理由② 追い込み馬の宿命
まずはこの記事を読んでほしい。
ハープスターは過剰人気馬の典型?“華やかさとリスクの代償”に迫る
追い込み馬は華やかで人気を集めやすい。しかし、展開に左右されたり、前が詰まったり、外を回さざるを得なかったり、不利を受ける可能性が高い。追い込み馬に安定した成績(しかも毎回1着)を求めるほうがおかしいのだ。
実際、キズナはこの日、終始外を回して大幅に距離をロスしていた。このやり方では相当周りと実力者がなければ勝てない。しかし前述のとおり、キズナは“普通のGI馬”だ。GI馬が何頭もいるレースに出れば“出走馬の1頭”にすぎず、このやり方では勝てない。
惨敗の理由③ ディープ産駒鬼門の長距離重賞
ディープインパクト産駒はマイルから2400mまで、幅広い距離で活躍している。一方で天皇賞春のような長距離重賞はディープインパクト産駒にとって“鬼門”といえる。
初年度産駒から数えて33頭が3000m以上の重賞に挑戦しているが、通算成績は(0−7−3−23)で勝ち馬はゼロだ。2着馬が7頭出ているため、“鬼門”を突破するのも時間の問題だが、他の距離に比べて適正は低いのは確か。
キズナはマイラー説があるように、単純に距離が長かった可能性は十分にある。
惨敗の理由④ “鮮度”の低さ
ディープインパクト産駒を紐解く上で重要なキーワードとなるのが“鮮度”だ。
実はディープインパクト、フレッシュな状態でないと走れない傾向にある。特に牡馬の場合、鮮度が悪くなると実力があってもメンタル面の問題で走らなくなってしまう。
この傾向はGI馬たちのキャリアを見れば明らかになる。ディープインパクト産駒は17頭が芝のGIを勝っている。しかし、JRAのGIを複数回勝っているのはジェンティルドンナとヴィルシーナの牝馬2頭のみ。牡馬はというと……
ダノンプラチナ 朝日杯フューチュリティステークス
ダノンシャーク マイルチャンピオンシップ
スピルバーグ 天皇賞秋
ミッキーアイル NHKマイルカップ
トーセンラー マイルCS
キズナ 日本ダービー
ディープブリランテ 日本ダービー
リアルインパクト 安田記念
ご覧のとおり、GI馬は8頭いるにもかかわらず、2勝している馬が1頭もいない。 (※リアルインパクトはジョージライダーステークスを勝っているが海外GIのため対象外)
キズナはGIを勝っているし、昨年春の天皇賞で走っているため、鮮度が低かったと考えられる。ディープインパクト産駒の傾向からすると“走り時”と言えなかったわけだ。
惨敗の理由⑤ 内枠有利のレース
そしてレースがキズナに味方しなかったのも痛かった。今年の天皇賞春は完全に内枠が有利なレースとなった。上位の枠順を見てみると……
1着 ゴールドシップ 1枠1番
2着 フェイムゲーム 7枠14番
3着 カレンミロティック 1枠2番
4着 ラストインパクト 2枠4番
5着 ネオブラックダイヤ 2枠3番
6着 ホッコーブレーヴ 3枠6番
ご覧のとおり、フェイムゲーム以外は内枠の馬が上位を独占している。ラストインパクトやホッコーブレーヴはまだしも、ネオブラックダイヤが5着に来ているのだから、いかに内が有利だったかが分かる。
またフェイムゲームにしても、スタートから内に入り、ラチから2頭目の位置で競馬していた。距離ロスが少なく、外に出したのは最後の直線になってから。
一方のキズナは終始外を回り、3、4コーナーでは大幅に距離をロスしていた。これでは走れるものも走れない。
キズナは復活するのか?
これだけ多くのマイナス要素があったわけだから、惨敗しても仕方がない。むしろ、ここまで騒ぎ立てられるのはキズナやキズナの関係者にとってかわいそうなことだと感じる。
おそらく次走は宝塚記念になる。宝塚記念の適性も高くないため、おそらく復活劇を演じるのは難しいだろう。
キズナと武豊騎手に待ち受ける試練…天皇賞春と宝塚記念制覇は困難?
ただ、キズナが弱い馬というわけではない。ハマればいつでも勝てる力は持っているし、適正なレースに使われれば簡単に負けない。
そういう意味で宝塚記念や凱旋門賞を使うのはどうなのか。
ディープインパクト産駒が得意なのは馬場が軽い東京や京都の芝コースだ。馬場が重たい宝塚記念(阪神競馬場)や凱旋門賞(ロンシャン競馬場)とは適正がズレる。
本当にキズナを復活させたいのなら、(トーセンラーがそうだったように)安田記念やマイルチャンピオンシップといったマイル戦を使って刺激を与えたり、走ったことがない東京芝2000mの天皇賞秋やダービーを勝った東京芝2400mで行われるジャパンカップで久々に走らせてみてはどうだろうか?
ファンが多い馬、期待が多い馬というのは分かる。今さらマイル路線に行ったり、フランス遠征を取りやめるというのは許されないかもしれない。
しかし、ファンが本当に見たいのは適正が合わないレースで負けるキズナの姿ではなく、(たとえ王道路線でなくとも)華麗に差しきり勝ちを収めるキズナの姿である。
本当にキズナを復活させたいなら――。
選ぶべき道が、他にあるのかもしれない。陣営の“英断”に期待したい。
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