ドバイワールドカップデー惨敗の日本馬の敗因と煽り報道の是非を考える

3月28日、アラブ首長国連邦のドバイ、メイダン競馬場でドバイワールドカップデーが開催された。日本馬はドバイワールドカップに出走したエピファネイア(牡5)が9着、ホッコータルマエ(牡6)が5着、ドバイシーマクラシックに出走したワンアンドオンリー(牡4)が3着、ハープスターが8着、そしてUAEダービーに出走したゴールデンバローズ(牡3)が3着、タップザット(牡3)が5着、ディアドムス(牡3)が8着という結果に終わった。

去年はジェンティルドンナとジャスタウェイが勝利し、日本馬が大活躍だった。今年はなぜ、多くの馬が活躍できなかったのか? 改めて振り返っていきたい。

目次

世界的なダート馬が生まれにくい環境

ドバイワールドカップとUAEダービーに関しては明確な答えがある。

残念ながら、まだ日本のダート馬は世界のトップレベルとは差があるのだ。これが現実と言わざるを得ない。

日本の芝馬、特に芝中距離路線は世界でもトップクラスの実力と層の厚さを誇っている。

凱旋門賞こそ、適正の違いによって制覇に至っていないが、ホームグランドで行われるジャパンカップではもはや外国馬は相手にならない。また、ドバイにおけるジェンティルドンナやジャスタウェイの勝利、オーストラリアにおけるアドマイヤラクティやリアルインパクトの活躍を見れば、芝路線のレベルの高さは明らかだ。

事実、海外における日本調教馬の芝GI優勝回数は26回に上っている。

一方、残念ながらダート馬は海外で活躍できていない。GI勝利回数はいまだにゼロ。今までの最高成績(ドバイワールドカップ2着)を残したトゥザヴィクトリーはもともと芝のGI馬である。日本と海外ではダートの質が違うため、一概に日本馬のレベルが低いということはできないが、残念ながらトップレベルにあるとは言えない。

理由はいくつも考えられる。例えば日本の血統がサンデーサイレンス系に偏りすぎている点だ。サンデーサイレンス系は芝の中距離を得意とするため、ダートが苦手な馬が多くなる(=ダートのレベルが低くなる)のは仕方がない。

また、そもそも日本のホースマンたちが最初に目標に掲げるのは「日本ダービー制覇」である。日本ダービーを勝つための馬作り(=芝中距離で勝てる馬作り)が行われているため、世界で通用するダート馬が生まれにくい環境にあるのだ。

今後は、特に3歳ダート路線の整備を行わないと、ダート馬のレベルはなかなか上がっていかないだろう。

ただゴールデンバローズの3着は嬉しいニュースだった。UAEダービーのペースは先行勢に辛いものだった。そんな中で3着に粘ってみせた。おそらく適正距離はもっと短いだけに、マイル前後であれば世界で戦えるのではないだろうか?

今回の結果にめげることなく、再び果敢に海外へ挑戦し、ダートGIを制するシーンが見てみたい。

エピファネイアの惨敗は残念だが必然

エピファネイアの惨敗に関しても触れなければならないだろう。

まず、下記の記事を読んでいない方は、先に目を通してほしい。

なぜエピファネイアのドバイWC挑戦を“批判”するメディアはないのか?

ここで書いたように、芝GI馬がいきなりダートGIで結果を出すのは極めて困難なことだ。

大前提として、芝とダートでは求められる能力が全く違う。

芝では瞬発力やスタミナが重要になるが、ダートで求められるのはパワーだ。そして砂をかぶってもひるまないような根性や経験も必要となる。

だから芝適性の高い馬や、芝のレースを使われ続けてきた馬はたとえGI級の力を持っていたとしても、ダートで惨敗するケースが多々見られる。カレンブラックヒル、トゥザグローリー、グランプリボス、リーチザクラウン、ローエングリンといった芝GIで好走経験のある馬のダート挑戦の歴史を振り返れば、厳しさは明らかだろう。(上記の記事より引用)

言ってみれば芝とダートは、バレーボールとビーチバレーくらい違う。

バレーボールのオリンピック金メダリストがビーチバレーでいきなり活躍できるかというと、必ずしもそうではない。バレーボールの実力は折り紙つきで身体能力も高いはずなのに、足元が砂というだけで全く違う競技になる。

競馬でも同じことが言えるのではないだろうか?

エピファネイアの挑戦は残念な結果に終わった。しかし、今回に関しては「仕方なかった」と割り切るべきだろう。芝に戻れば大将格であることに変わりはない。今回、海外遠征の経験を詰めたとプラスに捉え、さらなる挑戦にトライしてほしい。

復活へ手応えを得たワンアンドオンリー

ゴールデンバローズとともに、日本馬の中で健闘したのがワンアンドオンリーだ。

昨年の日本ダービーで勝って世代の頂点に立ちながら、秋は不甲斐ない成績に終わった。特に古馬GIの成績が振るわなかったため、ここでも厳しいと思われていたが、大健闘の3着となった。

昨年の秋は完全に使い詰めのローテーションで馬がかわいそうだった。しっかりと間隔を空けて大事に使えば一級戦で戦える力はあるということだ。

今後はキングジョージへ向かう可能性が高いという。ぜひ実現し、父の無念(3着)を晴らしてほしい。

適正距離を見誤った? ハープスターの惨敗

最後にハープスターについて。

ハープスターは過剰人気馬の典型?“華やかさとリスクの代償”に迫る

大前提として1番人気というのは明らかに過剰人気だった。3歳牝馬限定GIの桜花賞を制したあとはオークスで敗れ、凱旋門賞やジャパンカップ、さらに京都記念でも健闘止まり。そんな馬が世界の強豪より人気を得ていたというのだから、少しかわいそうだった。

敗因はいくつも考えられるが、やはり距離の問題が大きいように思う。

馬齢が若いうちは長い距離に適応できる。だから凱旋門賞やジャパンカップでも上位に入選できた。しかし、古馬になるとだんだん距離の融通がきかなくなってくる。

特に母父のファルブラヴは短距離馬を出す傾向にある。エーシンヴァーゴウ、フォーエバーマーク、アイムユアーズ、ブルーミンバーなど、活躍しているのはほとんどが2000mより短い距離(というかマイル以下)で走る馬だ。母系に入ってもその色が濃く出てしまう可能性は十分にある。

幸い、彼女にはヴィクトリアマイルという“最適のレース”が用意されている。厳しいスケジュールの中で迎える帰国初戦ではあるが、適正を見極める上でこれ以上のレースはない。内容を見て、今後の路線を適切に判断してほしい。

煽り報道の是非

こうして冷静に振り返ると、どの馬も不安要素を抱え、厳しいシチュエーションに置かれていたことが分かる。

日本馬が海外へ挑戦するというニュースは嬉しいし、一人の競馬ファンとして応援したいと思う。ただ、今回もマスコミの報道は煽る内容のものが多かったように映った。(これはあくまでも私の主観であるため、「違う」という意見はあって当然だし、そういった意見は素直に受け入れたい。)

サッカーや野球でもそうだが、煽るだけの報道に価値はあまりない。冷静な分析も必要になってくる。

ファンとしては煽られれば煽られるほど、期待値は高くなる。期待値が高くなれば、裏切られた時の落胆も大きくなる。

「日本馬の海外遠征を盛り上げる」というのはいい姿勢だし、必要なことだ。しかし一方で「現実的には◯◯」という冷静な意見がもっと必要だったのではないだろうか?

もちろん、無理やり批判しろということではない。「そういう考え方もある」ということを示すことで議論が生まれることに価値がある。そして、それがメディアの一つの大きな役目である。

来年も、あるいは今年もまだまだ日本馬は海外に挑戦していくことだろう。ワンアンドオンリーはキングジョージへ向かうし、キズナは凱旋門賞への再挑戦を表明している。彼らが挑戦する際には競馬を盛り上げることに加え、色々な角度からの意見が必要になってくるのではないか。そうしていくことで競馬という文化はより一層、広がっていくと思う。

そんなことを考えた、今年のドバイワールドカップデーだった。

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