競馬界の“七不思議”といえる記録にピリオドが打たれた。
3月29日に行われたダートのGIII競走マーチステークス(1800m)でクロフネ産駒のマイネルクロップが勝利を収めたのだ。
丹内祐次騎手、飯田雄調教師にとって嬉しい重賞初制覇となったが、驚くべきことにクロフネ産駒も中央のダート重賞を制したのはこれが初めてだった。
このニュースを聞いて「え、うそ!?」と思った競馬ファンは多かったことだろう。なにせクロフネといえばジャパンカップダートで歴史的な大勝を収め、「日本競馬史上最強のダート馬」として名前が上がる超A級のダートホースだったからだ。
なぜ今までクロフネ産駒はダート重賞で勝てなかったのか? 今回はその謎に迫ってみたい。
目次
散々なダート重賞成績
クロフネ産駒はダート適性が低いわけではない。事実、3月30日現在、芝ダート合わせて954勝を挙げているが、内訳は芝が287勝に対し、ダートが667勝だ。
つまり、圧倒的にダートの勝ち星の方が多い。これでダート適正が低いというのは無理がある。
しかし、事実としてダート重賞では結果が出ていなかった。マーチステークスが始まる前までの成績は(0−4−3−44)。実に51頭が出走していたが、1頭も勝ち星を挙げられなかったのだ。
産駒はパワー不足?
明確な理由は神のみぞ知るといったところだが、今回は仮説を立ててみることにしよう。
例えば、
・クロフネ産駒は総じてパワーよりスピードが優れている
・新馬、未勝利クラスならそこそこのパワーとスピードで押し切れる
・重賞クラスになるとパワー不足を露呈する
という説が有力ではないかと私は考えている。
クロフネはジャパンカップダートを圧勝したイメージが強い。しかし一方でNHKマイルカップを制した芝のGI馬でもある。芝はダートよりスピードが求められる。だからクロフネはもともとスピードのポテンシャルを秘めていたことになる。
種牡馬としてスピードを伝える一方、ダートの一流馬になるためのパワーを伝えきれていない――。
そんな現実が生んだ不思議だったのではないだろうか?
種牡馬クロフネの真の姿とは?
ではクロフネ産駒はどんな条件が最もあっているのか? この答えはクロフネが生んだ大物たちを見ればすぐに分かる。以下はGIを制した産駒の一覧だ。
フサイチリシャール 朝日杯フューチュリティステークス
スリープレスナイト スプリンターズステークス
カレンチャン スプリンターズステークス、高松宮記念
ホエールキャプチャ ヴィクトリアマイル
いかがだろうか? もうお分かりだろう。
勝ったGIはすべて芝の短距離。そう、クロフネは芝のスプリンターを生む種牡馬なのだ。
ダートで求められるパワーより、芝で必要なスピードを伝えているのであれば、この傾向も納得がいく。
ダート馬、ダート種牡馬という印象の強いクロフネであるが、最も向いているのは芝1200〜1600mなのだ。
ケチャップの瓶はとれた
以上のように、クロフネはダート種牡馬というより芝の短距離種牡馬というのがデータから見る“真実”だ。
もっとも、ダートが向いていないわけではない。今後、活躍馬を出す可能性は十分にある。
不思議なほど解けなかった難問が、あることをきっかけにスラスラ解けるようになる、というのはよくあることだ。
サッカー日本代表の本田圭佑選手は得点が決まらない時、「ゴールはケチャップのようなもの。出ないときは出ないけど、出るときはドバドバ出る」と語った。(※ちなみに元ネタは元オランダ代表の名ストライカー、ルート・ファン・ニステルローイのもの)
クロフネも長らく解けなかった呪縛が解けた。この重賞勝利がケチャップの瓶の蓋をあける合図だったとしたら、今まで勝てなかったことが不思議になるほどの現象が起こるかもしれない。そんな未来も期待しつつ、クロフネ産駒の今後に注目したい。