3月22日に中京競馬場で行われたファルコンステークス(GIII/芝1400m)で14番人気のタガノアザガルが低評価を覆して重賞初制覇を成し遂げた。鞍上の松田大作騎手にとってはデビューから19年目の、悲願の重賞初制覇となった。

レース後のインタビューで松田騎手は「自分が重賞を勝てるとは思っていませんでした。19年やってきて、色々な想いがこみ上げてきました」と、涙ながらに語った。

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愛娘の死……19年の壮絶な騎手人生

松田騎手の騎手人生は平坦なものではなかった。

競馬学校13期生として1997年にデビュー。初年度は10勝にとどまったものの、2年目は27勝まで勝ち星を伸ばした。

騎手として成長するために2001年にイタリアへ、2005年にアメリカへ赴いた。しかし、いつ大レースを勝ってもおかしくない騎乗技術を持ちながら、国内ではなかなか重賞に手が届かなかった。

そんな最中に悲劇は起こる。2013年、最愛の娘である陽ちゃん(当時2歳)が交通事故で亡くなるという、痛ましい出来事が起こってしまったのだ。子どもを持つ親のひとりとして、この悲しみは計り知れないものだったと推測する。

「それでも」

しかし、いくつも試練に直面しながら折れることなく騎乗を続けた結果、2013年の年間勝利数は自己最多となる47勝を記録。2014年も33勝と、キャリアで2番目の好成績を残した。

そして運命の日はついに訪れた。

タガノアザガルはキャリア8戦2勝、前走のクロッカスステークスで大敗したこともあって、14番人気という低評価だった。

だが、好スタートから思い切った先行策を取ると、直線の半ばで先頭へ――。

追いすがるアクティブミノルや猛然と追い込むヤマカツエースとの壮絶な叩き合いの末、ハナ差で栄冠を手にした。

遅すぎる歓喜

松田騎手は馬券を買う人間からすると、「普通に買える騎手」だ。

知名度は高くないから人気が出ない反面、騎乗技術はしっかりしている。随所でいぶし銀な騎乗をして穴を開けてくれる。そんな騎手だ。超一流とは言わないが、少なくとも本命馬の騎手欄に名前があっても「ゲッ」とは思わない。言い方を買えると、今まで重賞を勝てなかったことが不思議なくらいだった。

そんな騎手が手にした念願の重賞初勝利――。

人間は壁を超えると、今まで足踏みしていたことがウソのように、トントン拍子に駆け上がることがある。

松田騎手は確かな騎乗技術があり、近年は騎乗馬の質も上がっている。そんな騎手が重賞という壁を乗り越えたのだから……。今後は今までの苦悩がウソのように大レースで勝ち出す、ということがあるかもしれない。

そんな未来に期待し、タガノアザガルと松田騎手に拍手を送りたい。

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