3月29日に中京競馬場で行われた高松宮記念は、香港馬のエアロヴェロシティ(騙7)が勝利を収めた。スプリント大国香港の力を見せつけた一方、日本馬にとっては力の差を痛感させられたレースとなった。
日本の競馬ファンは少なからず、悔しい思いをしたのではないだろうか? そして同時に、ある共通の想いを抱いたはずだ。
ロードカナロアって凄かったんだな、と。
2013年、日本史上最強のスプリンターが引退して以降、スプリント界は混沌としている。それほど、ロードカナロアという馬は偉大で特別な存在だったのだ。
今、改めてロードカナロアという名馬を振り返りたい。
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スプリント戦で脅威の複勝率100%
1200mはとても難しい距離だ。少しの出遅れ、少しの不利が命取りとなる。
そんな中、ロードカナロアの生涯成績は(13−5−1−0)。なんと生涯、一度も複勝圏を外したことがなかった。唯一の3着はGIの高松宮記念だから、どれほど安定して走っていたかが分かる。
史上最強牝馬の1頭として生涯連対率100%のダイワスカーレットが挙げられるように、「絶対的な安定感」というのは「絶対的な実力の証明」と言い換えられる。
あのサクラバクシンオーでさえ、スプリンターズでは6着に敗れている。また、マイル戦では馬券圏外に消えることが多かった。
「絶対的な安定感」という意味で、ロードカナロアの右に出るものはいないわけだ。
香港スプリント連覇という大偉業
ロードカナロアを語る上で欠かせない実績といえば、香港スプリントの連覇だろう。
かつて、香港スプリントは凱旋門賞に匹敵する「高い壁」だった。
日本のサラブレッドの生産は芝の中距離馬に偏っている。芝2400mの日本ダービーが「ホースマンが目指す頂」だからだ。一方、香港やオーストラリアはスプリント戦に比重が置かれている。
日本はただでさえスプリンターが出にくい土壌にある。だからスプリンターがピラミッドの頂点にいる香港のスプリントGIを勝つなど、一昔前までは「夢のまた夢」だった。事実、2011年まで香港スプリントに14頭の日本馬が臨んだが、最高順位はカレンチャンの5着。ほとんどの馬が二桁着順に敗れていた。
「香港スプリントを制するのは凱旋門賞で勝つより難しい」
一時期はそう言われたものだ。
しかし、ロードカナロアは「夢のまた夢」と思われた快挙をいとも簡単に達成した。しかも2年連続。さらに2年目は5馬身差という考えられない着差で圧勝してみせた。
2着のソールパワーは後に英国の短距離GIを2勝、香港GIを1勝した。5着のスターリングシティは翌年のドバイゴールデンシャヒーンを制覇。ラッキーナイン、スレードパワーも後にGIを勝っている。決してレベルの低いメンバーではなかった。
ロードカナロアという馬がいかに特別で偉大だったか、今振り返っても痛感させられる。
ロードカナロア級の馬を育てるために……
ここまで偉大なスプリンターは今後、なかなか出てこないだろう。日本が芝2400mに比重をおいている限り、どうしても短距離やダート界は手薄になってしまう。
ただ、ロードカナロアが出たのだから、「絶対に現れない」と断言することはできない。むしろ、スプリンターが生まれにくい環境の中でロードカナロアという怪物が出たことをプラスに捉えるべきだろう。
彼を生んだ最大の要因は安田隆行調教師にあったと感じられる。安田隆行厩舎はスプリンター育成のスペシャリスト集団だ。
ロードカナロア以外にもカレンチャンやダッシャーゴーゴー、レッドオーヴァルといったスプリンターを数多く輩出している。彼らのような特定の距離に特化した厩舎があってもいいと思うし、そういう厩舎で花咲く馬も出てくるはずだ。
何より馬の距離適性を把握して中途半端に中距離で走らせるようなことをしなかったのは、ある意味“英断”といえる。おそらくロードカナロアくらいの能力があればマイルや中距離でもそこそこやれたはずだ。そんな中でスプリント路線に絞って育て上げたからこそ、史上最強スプリンターは完成したと考えられる。
日本ではどうしても芝の中距離を勝った馬が称賛される傾向にある。種牡馬ビジネスを考えても、高松宮記念馬より天皇賞秋馬のほうが重宝される。
ただし、馬が持っている可能性はそれぞれ違う。
幸い、近年はレースの選択肢が海外へ広がった。今春、多くの日本馬がオーストラリアやドバイに渡ったように、レースの選択肢は多い。馬の適正を見極め、適切なレースに使っていくことができれば、いずれは第2のロードカナロアも出てくるのではないだろうか?
いずれにしても、ホームで海外勢にやられるというのは悔しいことだ。香港馬に太刀打ちできるような、世界で活躍できるような、新たなスプリント界のエース誕生に期待したい。