“3度目の正直”ということわざはゴールドシップのためにあった――。
少なくとも5月3日、淀の3200mに魅了された競馬ファンはそう考えたはずだ。
過去2回の天皇賞春では人気に支持されながら期待を裏切った。今回に関しても「2度あることは……」という声が少なからず聞こえていた。そんな中で何が起こったか、結果はご存知だろう。
なぜ“芦毛の怪物”は天皇賞春を制すことができたのか? 今回は“3度目の正直”の背景にある真相に迫ってみたい。
目次
春の天皇賞2連敗の原因
今回の勝因を紐解く上で、過去2回の敗因に触れなければならない。過去2回の敗因は、この2つだと考えられる。
・速い上がりが求められるレース質
・京都の高速馬場
ゴールドシップは脚が遅い。33秒の上がりを求められるレースになると、どうしてもキレ負けしてしまう。過去2回の天皇賞春は高速馬場の中、上がりが求められるレース質になった。これでは出番は訪れない。
しかし、今回勝てたということは問題を克服できたということだ。どんなレースぶりだったのか、振り返ってみよう。
ロングスパートに隠された“思惑”
ゲート入りに苦労したゴールドシップはスタートで行き脚がつかず、最後方から競馬を進めた。いつもならこのまま最後方に待機し、最終コーナーでまくる競馬をしたはずだ。
しかし、鞍上の横山典弘騎手が動いたのは向こう正面だった。
例年、二周目の向こう正面というのはペースが緩む。最後の直線で余力を残しておかなければならないため、ここで動いたら普通は持たない。騎手としては「なんとかパートナーを抑えたい」という心理がはたらく。だから、積極的な競馬をする馬が少なく、落ち着いたペースになりやすい。
ただここでゴールドシップの敗因を思い出してみよう。
・速い上がりが求められるレース質
・京都の高速馬場
高速馬場はどうにもならないとして、問題は一つ目。速い上がりを求められるレース質になったらゴールドシップが負けるのは目に見えていた。勝つためには何かをしなければならない――。横山典弘騎手はそう考えた末、向こう正面からのロングスパートを選択したのだろう。
結果、レースは動いた。
最後方のゴールドシップが一気に押し上げたことで全体のペースは上がった。昨年のレースラップは残り1400m付近から「12秒9―12秒9―12秒3」と推移していたが、今年は「12秒3―12秒5―12秒」と、速くなっている。馬場差があるとはいえ、全体のラップを比較しても今年は明らかによどみがない。
向こう正面からペースが乱れて速くなるというのは、各馬が脚を溜めるタイミングを失ったことを意味する。直線の末脚に懸けていた“脚の速い馬”たちは、瞬発力を使う前にガス欠に陥ってしまった。
脚は遅いがスタミナのあるゴールドシップは向こう正面からレースを支配し、自身が得意とする底力勝負に持ち込んだわけだ。
上位に来たスタミナ自慢たち
いかに凄まじいスタミナ比べだったかは、上位に入った馬たちの血統を見れば容易に想像ができる。
ゴールドシップは言わずもがな。
※おすすめ記事→驚異のスタミナ!ステイゴールド産駒のJRA長距離GI勝率が11年以降60%に
2着のフェイムゲームはステイゴールドの近親で、母父アレミロードはスタミナ豊富なセントサイモン系。母母父ディクタスはナリタトップロードやヒシミラクルを生んだサッカーボーイの父だ。
3着のカレンミロティックはフェイムゲームと同じハーツクライ産駒。そして5着のネオブラックダイヤは母父エリシオ、母母父トニービンという“凱旋門賞血統”を詰め込んだ馬だった。
力が劣る人気薄がこれだけ上位に来ているのだから、スタミナ比べになったことに疑いの余地はない。ゴールドシップは自分の得意なフィールドを自ら作り上げ、天皇盾をつかむことに成功したのだ。
黄金コンビの航海は続く
まとめると、ゴールドシップと横山典弘騎手は自分たちの弱点を克服するため、ロングスパートという仕掛けを打った。横山騎手にとってゴールドシップの力を信じなければ、できなかった策だったのではないだろうか?
パートナーの能力を完全に把握して勝つために最善を尽くした横山典弘騎手、そして向こう正面から鞍上の“檄”に応えて3度目の正直を果たしたゴールドシップは、どちらも見事という他なかったのである。
次走に予定されている宝塚記念では3連覇がかかる。気まぐれだがやる時はやる愛すべき騎手と“芦毛の怪物”がどんな走りを見せるのか。「天才×天才」という黄金コンビの航海は続く。
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