どうしてハープスターは桜花賞しか勝てなかったのか?
5月7日に現役を引退したディープインパクトの愛娘のキャリアに疑問を抱く方は多いはずだ。爆発的な末脚を繰り出し、他の馬にはない特別な才能を持っていることは明らかだった。それなのに、GIタイトルは牝馬限定の桜花賞だけ。否が応にも物足りなさを感じてしまう。
なぜ、ハープスターはGIを一つしか勝てなかったのか? そのキャリアを紐解くことで、彼女が背負っていた“十字架”を解き明かしていこう。
要因① 極端すぎる脚質
最初に挙げられるのは、脚質が極端すぎたことだ。最後方に構えて直線で外を回して差し切る――。それがハープスターのスタイルだった。
新潟2歳ステークスの上がり3ハロンは32秒5、桜花賞は32秒9だった。強烈すぎる、鮮烈すぎる末脚を持っていたため、このスタイルを取ることができた。ただし、追い込み一気というのは現代競馬のスタイルに合わない。
馬場造園技術の向上により、内と外の馬場差がなくなってきている。よって単純に外を回した馬は距離をロスした分、不利になるケースが多くなっている。ハープスターの脚質では、もろに不利を受ける可能性が高いというわけだ。
オークスでは好位から早めに抜けだしたヌーヴォレコルトを捉えきれなかった。凱旋門賞では外からただ1頭伸びてきたが、勝ったのは内から抜けだしたトレヴだった。機能性がなければ現代競馬でコンスタントにいい成績を残すことは難しい。言い換えると、秀逸な末脚で能力の高さを示したとしても、結果につながるとは限らないのだ。
機能性不足――。それが大きな要因の一つだった。
要因② スターとなり試作が難しくなった
新潟2歳Sや桜花賞で後方一気のスタイルを確立させたことが、彼女のキャリアを難しくしてしまった。一度ハマったスタイルを変えることは簡単ではなく、先行を試みたり、馬群の中に入れてみたりしたが、試作はうまくいかなかった。
そもそも新しいチャレンジができるような環境になかったことが陣営にとって不幸だったといえるかもしれない。鮮烈な末脚に注目したマスメディアは彼女をスターに仕立て上げた。多くのファンは「外を回せば勝てる」と思っている。本当は先行させたかったとしても、それで失敗したら批判を浴びることは間違いない。そうなると、やりたいことがやりづらくなる。しかし、試作を試みることができなかった結果、敗戦を重ねることになった。
そういった“ジレンマ”に悩まされ、ハープスターのキャリアは影を落とすことになったのかもしれない。
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