2010年4月のある朝、家のチャイムが鳴った。
ドアを開けるとスーツ姿の男女が10人。そして突きつけられた令状。
「競馬でたくさんもうけていますよね?」
━━━━━マルサだ。
大阪国税局の査察が入る。そして競馬ファンだけでなく、社会を震撼させた「馬券裁判」へ。10億円に近い課税、そして馬券で得た所得を申告しなかったため単純無申告の罪で起訴されることとなる。
主な争点となったのは、
━━━━━外れ馬券は経費として認められるのか。
大阪地方裁判所の判決は、「外れ馬券を含めた購入費用が必要経費である」。しかしこれに検察側が控訴。高裁でも第一審と同じ判決だったが、検察側が上告したため、争いの場は最高裁へ。
そして最高裁でも卍氏の主張が認められ、 国税局の査察が入ってからちょうど5年、ようやく「馬券裁判」の幕が下りた。
競馬で億単位の多額の利益を得た方法――。
今あの馬券裁判を振り返って、そのときの心情――。
卍氏のその素顔に迫ります。
目次
競馬を投資として考えていなかった
──本日はよろしくお願いいたします。
まず最初に競馬を好きになったきっかけをお聞きしたいと思います。
卍:麻雀仲間の友人達が競馬の話で盛り上がっていたのがきっかけです。
ナリタブライアンが活躍していた時代です。最寄りのWINSまで自転車で数分という恵まれた環境だったので、よく朝一からWINSに出かけていました。
──なぜか少し安心しました。勝手な思い込みかもしれませんが、投資として競馬をやっておられる方は、あまりレースを見たりドラマを感じたりということがない印象がありました。卍さんはイチ競馬ファンとして好きな馬や印象に残ったレースなど、競馬に纏わる想い出はありますか?
卍:まだ競馬を投資として考えていなかった頃には、好きな馬や思い出のレースがあります。
ナリタブライアンとマヤノトップガンが阪神の直線で叩き合いした阪神大賞典は、リアルタイムで見ていて感動しました。
で、その後の天皇賞でも当然ながら2頭の一騎打ちムードでしたが、そのときの私の本命馬はサクラローレルで、見事に1着に来ました。馬券はサクラローレルから馬連総流しという大穴狙いだったので、おもいっきりトリガミでしたけども(笑)
思い返してみれば、この頃からすでに、大勢に注目されている人気馬に逆らいたくなる穴党の傾向がありましたね。
1億5000万円を生んだ思考回路
──たしかに、卍指数は大勢の人が見落としているところを狙うのが本質ですものね。著書の中ではそういった大勢の人たちの注目している要素として「前走の着順」、逆にあまり注目されていない要素として「馬番の奇数・偶数」などを挙げておられました。そういった期待値の高いファクターは自身で見つけると書かれていましたが、どういった時に期待値が高い、と気が付くのでしょうか?
卍:最初は、とりあえず目についたファクターは片っ端から調べていました。
その後は、インターネットや競馬本などで情報を収集して、新たに知った情報を、過去データを使って実際に検証して確認するということの繰り返しです。競馬の格言なんかもいっぱいあるので、そういうものも過去データを使って検証していきました。
自分があまり詳しくない分野のサイトや競馬本を読めば、得られるものも多いです。
──「卍指数」を出すために競馬ソフトを利用されているとのことでしたので、ソフトが勝手に買い目を推奨してくれるものだと思っていましたが、実はけっこう手間のかかる作業なのですね。そういった分析がお好きなのですか? また統計学など専門的なことを学ばれた経験がおありなのでしょうか?
卍:分析は大好きです。図書館で過去何年分ものスポーツ新聞を出してもらって、その場で全レースの全馬の指数を全てノートに書き写す作業を何日もやって、その指数を家で分析していたほどなんですよ。今から考えると、おそろしく無駄な時間でしたね。
統計学は、中学校のくじ引き問題あたりは大好きでしたが、高校でPやらCやらの記号が出てきた時点で嫌になりまして(笑)。その後は、競馬の分析に興味を持ち出してから、統計学に関する参考書1冊とインターネット上のサイトで勉強しました。
正直、高度な統計学は競馬の分析には不要です。でも中学校程度の知識は必要だと思います。
──ありました。PとかCとか。ただ時間をかけて分析しても、時とともに変化するファクターもあるかと思います。定期的に改良されたりされるのですか?
卍:少なくとも10年以上は有効なファクターを使うように心がけているので、ファクターや指数自体をコロコロと変えることはないです。
例外は、競馬場が改修されたときに、その競馬場に関するファクターを一時的に無効にしておき、数年後にサンプルが集まった段階で見直すことはあります。
※後編「1億5000万円を儲けた「投資競馬のコツ」とは?競馬裁判男が解説」へ
卍(まんじ)/プロフィール
独自の指数を使って、2005年から2009年にかけて100万円の資金を元に、累計約35億円の馬券を購入し、約36億5000万円を払い戻して、約1億5000万円の利益を叩き出した。その際に出たハズレ馬券が経費として認められるかどうかを争った、いわゆる「馬券裁判」で話題に。現在は予想家としても活動中。
記事提供=競馬予想GP